Vol.151 2010年鈴鹿8耐パート2
決勝の朝。
俺達の気持は充実していた。もちろんレースだから気持ちは不安もあったが、やれるだけの事はすべてやった充実感があった。
スタートは巧が受け持った。最終的にライディングポジションまで清成セットで臨む巧がどこまで対応するか?完全に自分のセットで走る清成が、どれ程のパフォーマンスを見せるか?楽しみでもあった。
スタートが切られ、俺達の予想通りの展開になった。序盤にどれだけアドバンテージを築くかが近年の8耐における勝利のための重要なポイントなのは知っている。
俺達は8耐を戦う時必ず自分たちのペースを計算している。1スティントで何周するか?そのためにアベレージタイムは何秒か?それを崩して戦う事はしない。なぜならその先にあるものは・・・多くのチームがその罠にはまって脱落した、俺達より速く走ろうとしたチームは特にそうだった。
近年では珍しく暑い8耐だったからペース配分は本当に難しかった。8耐は速く走れば勝てるモンじゃない。状況を把握しチームの持つ実力を余すことなく発揮し冷静に分析して、ゴールから逆算しなければ勝てないモノなんだ。言ってみれば、8耐は速いチームが勝つんじゃない、勝ったチームが速くて強いんだ。
俺達は8時間のうち6スティントでトップに位置していたが、内容は厳しかった。特に巧は合わないポジションがきつく、腰に来てしまいペースが上がらなくなってしまった。それでも4スティント目の清成が素晴らしい仕事をし、トップを奪還した時は感激した。厳しい状況の中で、世界を走ってきたキャリアを見せつけ、先行する車両を軽々パスして行った時、本当に龍一を選んで良かったと思った。この時俺達は急造チームでは無い一体感を持つ事が出来た。
その後、巧も踏ん張りトップの座を明け渡すことはしなかったが、7スティント目、巧がヤバイ状態になっていた。1時間の休憩では腰が復活しなくなっていたから。スタート前、巧に「どうしてもヤバくなったらサインを出せ」言っておいた。
案の定巧は自分のパートを10周程残しながらサインを出した。俺は清成に「行けるか?」確認した、清成だって楽な訳じゃない、みんな厳しいに決まってる。龍一は一言「頑張ります」キッパリ言ってくれた。何度もを8耐を獲ってるヤツは違う。今、自分がやるべき事をチャンと分かっている。頼もしいヤツだ。
俺達は8耐を獲った。215周をトップで駆け抜けた。想定ラップは216周だったが巧の緊急ピットインがあったから、余分に1回ピットストップがあったことを考えればしょうがない、予定通りだ。
ゴールした時、巧は自分のパートをこなし切れなかった悔しさ、勝った事、苦しさ、色んな事が頭の中で渦巻いたのだろう。珍しく泣いてた。
爽やな顔で帰って来た龍一、力一杯握手したよ。その龍一の背中は疲労でコブとり爺さんのように筋肉が腫れあがっていた。男・清成龍一!凄いぞ!
上がれそうで遠かったポディアムに立った俺は、頑張った二人のライダー・メカニック達、支えてくれた人達の事で頭が一杯だった。
とにかく暑い中応援にきてくれたファンの方々にお礼を言うのが精一杯だったよ。
それからの俺はもうドンだけ飲んだか覚えてない。(苦笑)ただホンダの打ち上げパーティーで武蔵精密工業の大塚社長が「来年もやるぞー!」言ったのを聞いたTSR藤井が「シゲキさん良かったね」俺達はレース屋だ。自社製品のPRのためにレースに参戦しているチームじゃない。本当に嬉しい言葉だし、それが分かっている藤井の言葉も嬉しかった。
それで気が緩んだか?後の事はほとんど覚えていない。
翌朝電話のベルが鳴った。「チェックアウトのお時間なんですが」(苦笑)