Vol.90  ’08鈴鹿300Km

鈴鹿300Kmレースから帰ってきた。
俺達は長いことレースをやってきたけど初めての経験だった。2輪レースは常に転倒のリスクが付きまとう。だから転倒リタイヤなんて言うことはイヤと言うほど味わってきたが、今回は出走出来なかったのだ。(正確には、しなかった、だが)
レースウイークに4メーカー合同の走行があり、月曜日移動で火曜日からビッシリ走り込んだ。安田の回復ぶりを確かめたくて乗せてみたし、一年振りに1000に乗る小西がどれだけ今年のマシンを乗りこなすか確認もした。
今年は一台でウイークに入った。
ヤスが大して乗れないと思ったし、久し振りに1000に乗る小西が二台をセッティングしながら乗るのも難しいと思ったからなんだ。(これが今回のレースを走れなかった伏線だった)
順調にウイークが進み、予選でも目標の一桁順位を確保出来た。今年は一からマシンを作っているので自分達のマシンのポテンシャルが測れないから、ひと安心だった。

不順な天候のウイークだったが、一転日曜日は快晴とは行かないまでも雨の心配は無かった。朝のフリー走行では小西が3番手のタイムを出し、俺達のテンションは上がっていた。
ヤスが走りたそうにしていたが、俺は心を鬼にしてダメ出しした。
昨日までは良かったけど今日はレース。俺達はレースを戦うチームなんだからレースに出られないヤスの面倒をみている余裕なんて無いんだ。ヤスもプロライダーの端くれなら、それを理解しなくちゃいけない。
チームの和を乱す行為になるんだ。
朝フリーが終わってヤスとその事についてじっくり話をした。これでヤスもひと回り大きくなるだろう。
アイツに足りない物があるとすればそのメンタルな部分だけだ。ライディングが素晴らしいことは誰よりも俺が認めているんだから。

レーススタート。
小西が珍しく出遅れた。
その出遅れた事が命取りになってしまった。
俺達はピットのモニターでその瞬間を見た。
数多くのマシンがS字でバラバラに飛び散って行った。スタート後の混雑した中、トップグループが転倒した際にオイルが出たようで、200馬力近いマシンがフルパワーを掛けていたらひとたまりも無い。
小西は正しくその最中にいた。
アッという間に飛び散ったらしいが、不幸中の幸いと言うべきか身体に大きなダメージを負っていなかった。
自力でピットロードに帰ってきたが、ピットに戻ろうとする小西をオフィシャルが制止する。便宜的に設けられたピットロード上のパークフェルメにマシンを止めろと指示するんだ。
俺は頭をフル回転させた。
ここで時間をロスしたらレース再開にマシン修復が間に合わない。ヤッパリTカーを持って来るべきだった。しかしそんな事を考えてもしょうがなない。とにかく直さないと、スタートに間に合わなかったら意味がないんだ。
8耐シュミレーションとも言うべきこの300Kmは、スタートから1時間が大事なシュミレーションなんだ。
俺はオフィシャルの制止を振り切りピットにマシンを運び込み、修復を指示した。
しかしマシンはエンジンに深刻なダメージを喰らっていたので再びスタートラインに付かせる事は出来なかった。
あのまま無理にスタートラインに付かせたら俺達のマシンがブローして違う事故が起きたかもしれない。
俺は泣く泣くリタイヤ届けを出した。

ペナルティーを覚悟でオフィシャルの指示を無視、マシン修復をしてスタートラインに付かせなきゃと思った同じ俺が。でも安全を最前提に競い合うのが真のレースだと思うし、それをないがしろにしたらレースチームオーナーとして失格だ。
可哀相なのはオフィシャルのお兄ちゃんだ。
一生懸命制止しているのに、言う事聞かないオヤジだと思っただろうね。
名前も知らないけどゴメンね。

1週間の集大成である筈の300Kmは終わった。
今度は1年間の集大成、鈴鹿8耐だ。