Vol.17  夏休み

8耐が終わって全日本後半戦に向けての準備が始まる。

毎年の事だが8耐が終わった翌週、夏休み前にスポーツランドSUGOでBSのテストが行われた。今年はJSBクラスに参戦するほとんどのチームが欠席なので、俺たちもどうしようか迷ったが、結局は参加した。ブリヂストンさんとの約束でもあるし、鈴鹿では走ることが出来ず8耐観戦になってしまった小西にも走る場を与えたかったこと、また、JSBマシンに慣れてしまった安田に600の勘を取り戻して欲しいし、周平もしばらく250に乗っていないので菅生の新路面を体験させたい等々。

結局レースをやっている限りはノンビリ出来る時間なんて無に等しい。

世間一般から見たら我々のやっている事は到底理解出来ないと思うな。
一般的な仕事の中でだったら1秒、ましてコンマ1秒位仕事が遅れたってなんの問題もない。しかし我々の中では、そのコンマ1秒を削るために膨大な時間と工数を掛ける。俺は人に「なぜレースをやるのか?」と聞かれると、文句無く「簡単にやった仕事に対しての答えが出るからだ」と答える。

俺たちはレースという特殊な世界で生きている。

これは携っているものでなければ理解出来ない筈で、外から見たらとても理解出来ない世界なのだ(どんな仕事でも同じだけど)。コンストラクターがマシンを製作してレースにエントリーしてくるそのマシンについて、外から見た人間がウンチクを述べる。他のマシンに比べてタイムが遅いだの、どうのこうのと。しかし、そのマシンを製作した人間はサーキット1周のタイムよりももっと大事な事を発見しているのかも知れないという事を、周囲であれやこれやと言う人間は知る由も無い。

ただ、俺達のやっている事は凄く狭い世界でのことで、興味のある人間や仕事で関係している人間にとっては影響を及ぼすが、それ以外の人達にとっては大した影響はない。

世間一般の人達から見れば、サーキット1周でコンマ何秒速いなんてどうでもいい事であるが、俺達にとってはそれこそが大事である訳だから、価値観の違う人に理解してもらえる訳がない。

先日の鈴鹿8耐で俺達は3位表彰台を獲得したが、その結果に対しての評価は2種類ある。一つは「良くやった」だし、もう一つは「棚ぼたの3位じゃない」、だ。
俺達は間違いなく嬉しかったし、関係する周りの人達全員に喜んでもらえたと思っている。仕事として考えても、我々の持てる実力を100%出しての好結果だったから、満足して良いのだと思うのが自然な考え方で、この結果に満足せず次回はもっと上を目指せ、なんていう事は俺達が勝手に考える事で、人に言われたくないよね。だから俺は今年の8耐については、「自分達の実力を出し切って頑張ってたら棚からぼた餅が落ちてきたんだ」って言うんだ。でもぼた餅が落ちてきた所にいられたのは、それなりの実力があったからなんだよな。

先日、スポーツランドSUGOで森脇さんと話をした、
今年の8耐で若い外人ライダーを走らせた森脇さん。常識的には8耐に実績の無い若いライダーを走らせるのは冒険であるし、リスクも伴なうからやらないのが普通だ。しかし、森脇さんは走らせた。それは見事な走りだった。きっとウイーク中、森脇さんはずーっと若いライダーのコントロールに努めてたんだろうと思う。結果的には難しいコンディションの中で転倒してしまったが、レオン・キャミアというライダーにとっては貴重な体験と自信を得たことだろう。
近い将来頭角を現すのは間違い無い。

そんなライダーを世に送り出すのも、森脇さんの卓越した眼力の賜物だし、さすがに業界の大先輩だ。
見習おう。

ともすれば結果が全てと思われがちなのが我々の仕事だが、そこに至るプロセスがあってこその結果であると思う。

少し堅い内容になっちゃったけど、俺達のやっている仕事を違った目で見てもらえると、レースのもう一つの楽しみ方があると、勝手に思ってます。

「いよいよ今週はスポーツランドSUGOだ。後半戦のスタートなので、キッチリと結果を残してチャンピオンチームに返り咲きだ」なあーんて言いながらも、忠さんや池さん等と行く南の島が楽しみな今日この頃です(笑)。