Vol.200 最後カタール
今年最後のレース
カタール。アラブ首長国連邦の中にある砂漠の国。昼間の気温は11月の終わりでも30度近くに上がる。夜は結構寒い。
アジア選手権最終戦はカタール。モトGPと同じように夜のレース。日本との時差が6時間位だから夜9時だと日本では夜中の3時、完全に俺は時差ボケした。
夜、走ると言っても一応朝(7時頃)には起きて朝食。出発は午後1時位と言われているが何もやる事なんて無い。毎日この時間が最高にかったるい。キヨや龍太はこの時間にトレーニングやっていたけど俺には必要ないし、起きたばかりで眠くも無い。成田で買ってきた本が唯一の時間をつぶす手段となる。
サーキットに着いて一番最初の仕事が昼食。腹なんて減ってない(苦笑)。それからわざわざ日が暮れるまで待ってから走行が始まる。まあ噂にたがわず明るいコースではある。俺は例によってコースサイドに陣取り各ライダーの走りをチェック・・・ところが、見えない。確かに走るのを見る事は出来るが、昼間のようにマシンの動きが見えない。一生懸命目をこらしてみても陰になって見えないんだ(これは問題だ。何とかしなきゃ)。場所を何か所も替えマシンの動きが見えるところを探したが、マシンに近いところは陰になり明るく見えるところは遠過ぎて良く見えない。結局いつものようには動きをチェック出来なかった(これが龍太の問題となる事は予想出来なかった)。
龍太はともかく、キヨが浮かない顔をしているのが気になったが隣のピットにいる克昭はもっと深刻な顔をしていた。
レース前、俺はチームマネージャーのロドニーに聞いた。「どう思う?」。ロドニーは緊張していて答が出せないでいる。俺は「心配するな、キヨ・アズのワン・ツーだよ」。彼は力なく笑っていたが、俺はレース1が終わった時点でかなりの確信を持った。
レース1では俺達がノーマークのザムリ・ババが逃げ切り、レース2では予想通りのワン・ツーフィニッシュ。深刻な顔をしていた克昭は本当に苦しんでいた。
最後のレースを完勝したことでキヨのチャンピオンが決まり、MuSASHi Boon Siew HONDA もチャンピオンチームになった。
龍太はレース1レース2共に上手く行かず(多分にマシンの問題が大きかったが、その動きを見抜けなかった俺の目にも問題が・・・)初の海外レースはほろ苦いモノとなってしまった。
最終戦でチャンピオンを決めたキヨがホッとし笑顔を初めて見せたし、マネージャーのロドニーに至っては、ピットボックスでその瞬間、とてつもない声で吠え、一発で喉を潰して翌日から声が出なくなっていた(笑)。
最後までチャンピオンを争ったカワサキの安井さんや野村さんから祝福された言葉「さすが!ハルク・プロさんですね」が嬉しかった。
長かったような短かったようなシーズンが終わった。俺の身体は、シーズンの終わりを待っていたように狂い始めた。頭が痛い熱っぽい腹の調子が。ヤバイ、何をやっているんだ、これから一年の締めが・・・。