Vol.234 2015年鈴鹿8耐

エッ!?うそっ!まさか?ピットモニターに映し出されている画像を見ていた俺は信じられなかった。あのケーシーが転ぶ?まあ、そう思ったのは正直モニターの中でケーシーが自力で這いずってイン側に逃げる姿を確認した後だったけど。

俺達の2015年鈴鹿8耐は終わってしまった。

マシンはヘヤピンのイン側に引きずり込まれ、ケーシーは救急車でメディカルへ搬送、二度とレースに復帰出来る状況では無くなった。スタッフ達はマシンが回収され修復し再びコースに出るための準備をしていたが、それは無駄な作業だと悟った。

メディカルでケーシーの肩甲骨と左足首に骨折の疑いがあると知らされた。「良かった、その程度で」世間一般では大怪我の部類かもしれないが俺達の世界は異常かも知れない。

スタッフや他の二人のライダーに状況を伝え、レースをリタイヤする旨の報告をし、コントロールタワー2階でリタイヤ届けを提出した。2004年から本格参戦してきた鈴鹿8耐で初めて書くリタイヤ届け。(レースに絶対は無い)何度も頭の中に出てきた。

レースはヤマハのエースチームが危なげなく勝った。序盤1スティント目を28ラップし、終盤のスティントを短くする作戦。(今の8耐は決勝で15本のタイヤしか使えないので、どこかで中古のタイヤを使わなければならない)まあ、順当な考えだ。SCが6回も入ったのでTSRは6回ピット作戦で戦っていた。これも良く考えた作戦で、経験豊富なTSRならではの戦い方だったな。本来ならもっと上位にきたであろうカワサキ・スズキのヨシムラ勢が沈んで行ったのでヤマハの優勢は揺るがなかったね。

俺は片付けられてガランとしたハルクのピットでレースの行方を見ていたよ。長かった、今年の8耐は。なにはともあれヤマハチーム19年振りの8耐優勝おめでとうございます。
今年のヤマハチームはすべてが素晴らしかった。俺達に優位性が有るのは安定したマシンと、長きに渡って使ってきたハードの信頼性だけ。

レースが終わって大破したマシンを引き上げ早速ロガーを吸ってみた。正しく、ケーシーのコメント通り、スロットルは約30%のところでスタックしていた。初めての経験だった、一度もこんな事になった事は無かったから。俺達の優位性だった筈の部分が崩れた。

ケーシーは一度も俺達を攻めることなくにこやかに帰って行った、その態度が余計に俺にはきつかったよ。素晴らしい走りを見せてくれたケーシー・ストーナー、巧とヘルメット交換をして「お前は素晴らしい、だけどもっと話をしろ」優しい男だったな。
反面、今年はマイケルが可哀想だった。まったく走ることなくレースが終わってしまったから。俺は「ゴメンな、今年は走る機会が無くて」言ったよ、でもマイケルはいつものスマイルで「問題無い、心配しないで、いつも有難う来年も一緒に戦いたい」言ってくれたね、ナイスガイ。マイケル。
巧は、レースが続けられない状況だと伝えた時はさすがに悔しさを隠さなかったけど、一言「しょうがないです」普段から口数は少ないけど、こんな時は余計に胸に響く。

普段は目茶苦茶に盛り上がる8耐打ち上げ、今年は?ある意味同じ位盛り上がったよ、それはそうだ、みんなだってどこかでエネルギーを発散しないと。だって今年は随分余力残してしまったから。(苦笑)