Vol.212 2013年鈴鹿8耐

ハルクの夏休みが終わった。

毎年鈴鹿の8耐が終わって翌週にモテギの2&4がある。その翌々日には菅生の合同テスト。そこで少し早目の夏休みを取らせてもらう。

今年の8耐は珍しく上手く行った。一口でいえば誤算だらけの8耐だったが。初めての外人ライダーとの組み合わせが誤算、その一人、レオンの足が治りきっていなかった誤算。ウイークに入ってからマイケルの快走、これは嬉しい誤算。レオンの足もほとんど問題にならなかったのも嬉しい誤算。

ウイークの仕上げ、予選で三人のタイムがほぼ同じくらいに揃った。ハルクの戦闘態勢が整った。レースは巧がスタートライダーで、自分のパートをリードしてピットイン。俺達のピットワークは完璧なもので、ピットインのロスタイムは最少で済んでいた。ところがこの一回目のピットインでまさかの大失敗。これも誤算。通常13秒台で済むピットインタイムだが、ナント18秒も掛かってしまった。

それでも巧のリードが効いて2位のTSRチームに抜かれずにピットアウト出来た。その後、怒涛の追い上げを見せるジョニーに抜かれたが、俺達は慌てていなかった。彼らは2人のチーム。前半、身体が元気な時に飛ばすだけ飛ばすのは想定内だったから。その後、キヨに代わってまもなく思いがけない事が。キヨが転倒したのだ。昨年は俺達のチームにいたキヨ。頑張っていたが、フロントを取られて転倒してしまった。まさかキヨが2年連続で転倒なんて思いもしなかった。ウイークの金曜日、少しだけキヨと話をした時「思うようなマシンにしてもらえないんですよ」と愚痴っていたのを思い出す。

俺達の誤算は続く。マイケルが予定外のピットイン。3周足りない。古傷の鎖骨骨折の手術痕から腕にしびれが出て握力が無いと言う。痛いのは我慢できるが、転んでチームに迷惑を掛けたくない。「僕は走りたいけど駄目なんだ。ごめんなさい」。走っている時はあんなにカッコいいマイケルが、その時はただの二十歳の少年に戻っていたのが少しおかしかった。

その後はヨシムラチームが2位にいたが、ペナルティーを受けたり転倒したりで、俺達にとっては気になる存在では無くなった。

マイケルが居なくなった事でレオンの負担が増えたが、思いの外、頑張り、俺達の心配は杞憂に終わった。

終盤レオンの最後のパートの時、オヤジのロン(あのロケット・ロン)が「私達は親子二代でこの鈴鹿8耐にチャレンジした。このレースの難しさはよく知っている」「今回、あなたのチームでチャレンジ出来た事を誇りに思います。有難う」。彼も、残り1時間以上あるのに勝利を確信していたんだろう。俺は感激したね。あのロン・ハスラムにレースの事でお礼を言われるなんて。レース屋冥利につきる。

最後のパートで雨が降って来たが、俺には想定内だった。巧には「7時頃に雨が降るかもしれない。分かっていると思うけど勝手にピットインするな」と、あらかじめ伝えてあったから。果して、巧は俺達の期待通りの走りを見せてくれた。俺達はスピードを上げる必要も無かったし、ピットインして無駄に2位との差を減らす必要も無かった。思った通り雨は程なく止み、すぐに路面はハーフドライに変っていった。俺達の勝利は確定的なものになった。

ゴール前の15分、武蔵精密工業の大塚社長は「時計が止まってる」と言っていたが、俺も同じ気持ちだった。今年の8耐はレースの大半トップをキープしたのでやけに長かった。

チェッカーを受けた時は本当に嬉しかった。去年、あんな形でレースを終えたのに大塚社長ほか皆さんに「感動した」と言われた。俺は「本当はこういう形の感動を与えたかった訳じゃない、来年は本物の感動を味わいましょう」。今年、自分が言ったその言葉を実践出来た事がいちばん嬉しかった。恒例の祝勝会では大塚社長はじめ、皆さんが心から喜んでくれた事が嬉しく、心地良い眠りに落ちてしまった(苦笑)。